レンタル移籍者を対象にしたコミュニティ「LoanDEAL Salon」。企業間レンタル移籍プラットフォーム「ローンディール」を活用して大企業からスタートアップにレンタル移籍した方々に会社の枠を超えた情報交換・共感できる仲間作りを目的に、オンライン・オフラインでの交流機会を提供しています。先日、Clipニホンバシにてオフラインイベント「LoanDEAL Salon vol.4」が開催されました。
ゲストスピーカーはDraper Nexusの中垣徹二郎さん
今回は、日米を拠点に活動するベンチャーキャピタルDraper Nexusのパートナー中垣徹二郎さんをゲストスピーカーとしてお招きしました。VCとして20年以上のキャリアを持ち、投資活動の中で、大企業とスタートアップのマッチングを通してオープンイノベーションを支援している中垣さんに、大企業でオープンイノベーションを進める際に必要な人材・組織体質についてお話いただきました。
[以下、中垣さんのセッション内容]
『オープンイノベーションに求められる人材とは』
なぜ今オープンイノベーションが求められるのか?
かつて大企業は、例えばITインフラや販売チャネルといった経営資源における競争優位性を、資金や時間をかけて獲得してきました。ところが昨今、クラウド化やSNSの発展・資金調達といったように外部資源をうまく活用することによって、スタートアップが大企業との差を短期間で埋められるようになりました。そのような背景から大企業にとって、スタートアップとの協業やM&Aは、事業の成長や加速のために必ず検討すべき選択肢となりました。
この時代変化に伴って、多くの大企業が新規事業の創出を目的に「オープンイノベーション」を掲げていますが、そもそも何のためのオープンイノベーションなのでしょうか。その目的が曖昧だと、スタートアップへの投資が過熱する現在の環境下、成功の可能性は低くなります。「現事業は10年後にはなくなっていると考え、今の稼ぎをすべて次の事業創出のために投資する」という会社もあるほど、どの企業も成長のために必死の現状です。まずは目的を明確した上で、取り組むことが必要です。
大企業が破壊的イノベーションを生み出すには?
イノベーションといっても種類は様々で、大企業が得意とする領域もあります(※画像左上・左下・右下参照)。例えば、開発にコストを要する既存マーケットでの新技術開発や、既存商品の最新モデルを出すような製品開発などがそれにあたります。一方、市場リスクが高くかつ実行リスクも高い領域、つまり市場があるかどうかもわからないし、実行するのも困難な領域(※画像右上)は、大企業にとって手を出し難い反面、スタートアップの得意分野です。例えば初期のフェイスブックやテスラがここに当てはまります。この領域に取り組む場合、大企業が自ら行うのではなく、スタートアップと連携してオープンイノベーションを実践することで「既存商品の新機種」にとどまらない、破壊的なイノベーションに繋がる可能性があるのです。
スタートアップと大企業がうまく付き合うには?
「破壊的なイノベーション」を起こすためにはスタートアップとの連携が必要とお話しましたが、大企業がスタートアップとうまく付き合っていくにはどうしたらよいのでしょうか。
まず前提として、スタートアップと大企業側は全く生態が異なるものだ、という意識が必要です。特に異なるのは資金力、規模、スピード感。スタートアップは、定期的に増資をしないとつぶれてしまうため、大企業はそのことを理解し、歩み寄ることが必要です。具体的には以下のようなことが求められます。
・スタートアップにメリットをしっかり提供すること。(資金、チャネル、顧客など。)
・スタートアップのスピード感や文化に歩み寄ること。
・社内の、特に意思決定者と意思を統一し、理解を得ておくこと。
・スタートアップは失敗が当たり前という側面もあり、人事評価も含めて中長期的な観点ですすめること。
・スタートアップならではの自由度やスピード感を制限するような縛りをしないこと。(一例として、アクセラレータプログラムを行う際に「出資する代わりに当社の○○技術を使ってください」という縛りを設けがちだが、避けた方がよい。)
例えば、大企業の場合NDAを結ぶのに法務チェックで1ヶ月かかってしまうといったことは多々起こりえるかもしれませんが、そのようなスピード感はスタートアップにとって許容できるものではありません。また、スタートアップの自由度を尊重している事例として、GoogleのCVCであるGoogle Venturesは出資に際して自社の技術使用などの条件を一切設けないことをあえて明言をしています。
両者の掛け橋となるのはイントレプレナー
前項では大企業からの歩み寄りの必要性についてお伝えしましたが、次はそれを推進する人材について考えていきます。実際にスタートアップと連携し、オープンイノベーションを進めていくのはどんな人材でしょうか。
アンケートによると多くの日本企業は、自社内にスタートアップとのパートナーシップを組めるようなイノベーション人材がいて、そのような人材は社内育成によって生まれると考えているようです。しかし、米国のトップベンチャーキャピタルのパートナーを見てみると、MBAや修士号の取得、起業経験、事業会社勤務などの経歴を横断的に複数持っている人がほとんどです。このような人でさえスタートアップ企業の目利きは難しいにもかかわらず、そのような人材を社内で育成できるのでしょうか。それだけでなく、R&Dやマーケティング部門からのニーズを商品開発につなげたり、新しいことを取り入れる人材をきちんと評価できるよう人事制度を変えたりと、社内のすべてのポジションが本気で取り組み変化しなければ、オープンイノベーションの実践は起き得ません。
この状況で必要なのは「イントレプレナー(社内起業家)」です。この言葉から社内で新しく事業をつくる人をイメージするかもしれませんが、「会社が目指す方向性に対して、社内外の環境を含めて変えていける人」としての「イントレプレナー」の存在もあると思っています。スタートアップの世界観を理解し、スピード感と情熱を持って企業が良い方向に進むよう取り組むことができる人材。イントレプレナーが両者の間でバランスをとることで、協業がうまく進みやすくなるのです。
レンタル移籍でイントレプレナーの資質を育む
アメリカの大企業の場合、M&Aを繰り返すことで多くのスタートアップ経験者が大企業の社内に存在し、「イントレプレナー」としてスタートアップとのオープンイノベーションを推進しています。しかし、日本の大企業がいきなり大量のM&Aを始めるというような急速な変化は考えづらい。そうなると、レンタル移籍というやり方は、今の日本企業におけるイントレプレナーの育成の手法として価値があるといえるでしょう。
今まさにレンタル移籍をされている皆さんが経験していることは、スキルや能力開発の機会として、間違いなく素晴らしいことなはずです。ただ、それだけではなく、その経験は「イントレプレナー」として元の会社に還元できるものであることを覚えておいてください。おそらく皆さんは今、スピード感や粗っぽさなどスタートアップ特有の環境で、大企業とのギャップを感じているはずです。そのギャップや空気感を感じ取れることにこそ「イントレプレナー」としての価値があるのです。大企業というゆっくりだが大きくてパワーのある歯車と、スタートアップの小さいが回転の速い歯車、この両者をうまくかみ合わせるギアのような存在として、まさに今経験していることが役に立つはずです。
スタートアップを取り巻く環境は改善されつつあるとはいえ、まだまだ人材が不足していることも事実です。皆さんのように大企業の人材がスタートアップを経験することは、スタートアップのみならず、日本経済全体の活性化、イノベーション創出のエコシステムとして、非常に価値のあることです。レンタル移籍を経験した皆さんが、元の企業に戻り、スタートアップとの協業やM&A/投資など様々な形で活躍されていくことを期待しています。
質疑応答でのやりとり
講演後の質疑応答は、以下のような質問があがりました。
Q: スタートアップとの連携において、どうしても収支・マネタイズに目が行ってしまいがちな大企業の社内を、どうやって説得すればよいのでしょうか。
A: 非常に難しい問題ですが、経営層と現場の握り、ビジョンが一致していることが最も重要だと思います。5~10年先を考えたときに会社がどうあるべきか、経営層と現場で共通認識をもっていれば、おのずと足りないものが明確になり、理解が得られやすくなるのではないでしょうか。
Q: スタートアップとの協業は、出資やM&Aが最終ゴールとなるのか。CVCをもたない企業にとってはハードルが高いのではないでしょうか?
A: 必ずしも出資・M&Aがゴールではありません。出資のハードルは高くても、研究開発費という名目で数百万円程度であれば低いハードルで資金を提供することができるケースもあります。しかし、将来的に当該スタートアップの技術を取り込んで市場競争力をもつためには、法的な縛りも必要になってくるため、M&Aの道は考えた方がよいと考えます。
[セッションは以上です]
セッション終了後・・・
セッションに参加したレンタル移籍者からの感想を、一部ご紹介します。
「オープンイノベーションという答えのないミッションを持って、スタートアップでの経験を生かして何をすべきなんだろうか?と考える事が多かったのですが、スタートアップと大企業の真ん中の歯車になることは、一つの答えの様な形がして腹落ちしました。」(NTT西日本 新田さん)
「 会社の方向性や未来を考えるところから現場の人が参加して、それに対して自分が今日から取り組むことを何かひとつでも見つけるところがスタートであるように感じました」(トレンドマイクロ 中村さん)
登壇者プロフィール
シリコンバレーを含む海外スタートアップの最新情報に精通し、長きに渡ってVCとして投資現場にいらっしゃるご経歴から、幅広い業界知識と投資経験をお持ちの中垣さん。公式プロフィールをご紹介します。
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おわりに・・・
今回は、中垣さんをお招きする貴重な機会ということで、レンタル移籍者だけでなく、貸出企業の人事ご担当者や新規事業ご担当者にもご参加いただきました。ローンディールでは、スタートアップでの経験に加え、相互に学びあう機会、企業同士の情報交換の機会などを通じて、組織開発に有益な情報も提供してまいります。ご興味のある方はお気軽に「info@loandeal.jp」までお問い合わせください。
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